日本政策金融公庫と銀行の違いとは?融資はどちらがおすすめ?

日本政策金融公庫と銀行

事業主が融資を希望する際、日本政策金融公庫と民間金融機関を候補として挙げることが多いです。いずれも創業や事業拡大のための融資を提供していますが、組織のあり方や融資目的が異なるため、利用に適した事業主が異なります。解説する日本政策金融公庫と銀行の違いを理解することで、融資成功率を上げたり無理のない返済計画を立てたりすることができるでしょう。

目次

日本政策金融公庫とは

日本政策金融公庫とは、株式の100%を国が保有している株式会社です。「株式会社日本政策金融公庫法」をはじめとする法律や、財務省によって決められた予算に基づいて融資を行う、政府系金融機関のひとつとして平成20年に設立されました。日本政策金融公庫には前身となる以下の3つの法人があり、50年以上の実績や業務内容が引き継がれています。

・国民生活金融公庫
・農林漁業金融公庫
・中小企業金融公庫

また、国庫金を資本とする日本政策金融公庫の役割は、銀行(民間金融機関)が行う金融を補完することです。そのため、銀行で融資を受けられなかった人や、実績のない人では通りにくい創業融資を希望している人でも、融資を受けやすい傾向にあります。

参考:日本政策金融公庫/総裁メッセージ「日本公庫の役割と使命」
参考:e-GOV法令検索/株式会社日本政策金融公庫法(平成十九年法律第五十七号)

日本政策金融公庫の事業目的

日本政策金融公庫は、銀行が行う金融を補完することを役割としたうえで、国民生活の向上に貢献することを目指しています。融資業務が中心であり、提供される融資制度の大半が事業主向けです。また、日本政策金融公庫では定められた役割を正しく遂行するため、以下の3つを主な事業目的としています。

セーフティネット機能の発揮

セーフティネット機能とは、国際的な金融不安をはじめとする経済環境の変化や自然災害が発生した際、社会ニーズを満たした支援を行う仕組みを指します。以下は、2020年ごろから流行した新型コロナウイルス感染症を受けて提供された融資制度であり、セーフティネット機能が発揮された実例のひとつです。

・生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付
・生活衛生新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付

一般的に、物価高や感染症によって業績不振になったり自然災害で被害を受けたりしたことを理由に融資を求めた場合、銀行からの融資は受けにくい傾向にあります。なぜなら、返済が滞る恐れがあるためです。

一方、セーフティネット機能の役割をもつ日本政策金融公庫では、社会情勢を反映した特別な融資制度が提供されます。さらに社会情勢を反映した融資制度は、無理のない返済期限や金利が定められるケースが多いです。つまり、日本政策金融公庫のセーフティネット機能が発揮されることで融資のハードルが下がり、より多くの事業主が融資を受けられる状態になるといえます。

日本経済の成長と発展への貢献

日本政策金融公庫では日本経済の成長や発展へ貢献するために、創業や成長戦略などの支援を行っています。支援内容は多岐にわたりますが、融資の形で行われることが一般的です。具体的な支援は以下の6つに分類されます。

・創業や新事業への支援
・事業再生支援
・事業承継支援
・ソーシャルビジネス支援(介護や福祉 等)
・海外展開支援
・農林水産業の新たな展開への支援

融資のほかに、後継者不在の小規模事業主と創業希望者を引き合わせる「事業承継マッチング支援」や、創業計画を具体的に策定する手助けとなる「ビジネスプラン見える化BOOK」などが提供されています。一部地域においては、創業支援センターやビジネスサポートプラザなどの相談窓口が設置されているため、資金に悩んだり融資について問い合わせたりしたい場合に活用するとよいでしょう。

地域活性化への貢献

全国に152店の支店数をもつ日本政策金融公庫では、地方公共団体や民間金融機関と連携を図り地域活性化への貢献に取り組んでいます。具体的な取り組みは以下のとおりです。(2023年3月時点)

・関係機関を繋いだり連携を強化したりすることで、地域課題の解決へ貢献
・地域ニーズに適した有益なサービスを提供
・地方版総合戦略など、地方自治体が行う取り組みへの支援

地方版総合戦略とは、地方自治体が衰退を食い止めたり発展させたりするために計画された施策などを指した言葉です。日本政策金融公庫では地域が抱えている問題を支援することで、それぞれの地域から国民生活の向上を図っています。

日本政策金融公庫の事業窓口

日本政策金融公庫には3つの事業窓口があり、事業規模や事業内容によって対応する窓口が異なります。いずれの窓口においても融資業務と経営支援サービスが提供されており、事業規模に応じたサービスを受けることが可能です。

日本生活事業

日本生活事業では、小規模事業主や個人事業主をはじめとする事業主に向けての業務が行われています。以下は、日本生活事業が行う融資の特徴です。(2023年3月時点)

・融資先数は約119万件
・融資先の9割が、9人以下の従業員を雇用する事業主
・平均融資残高は980万円であり、小口融資が主体
・無担保融資の割合は90%超え
・ほかの窓口にはない、事業主以外も利用できる「教育ローン」を提供

また、経営支援サービスとして、財務診断サービスや創業計画書作成に関するアドバイスなどが行われています。従って、創業を計画している人や、経営やマーケティング戦略の見直しを希望している事業主など、多くのニーズに応えられる窓口だといえるでしょう。

中小企業事業

中小企業事業は、中小企業者を対象に融資や経営支援サービスを行う窓口です。日本生活事業よりも、長期的で融資額の多い融資制度を取り扱っています。以下は、中小企業事業における融資の特徴です。(2023年3月時点)

・融資先数は約6万件
・融資先の8割が、20人以上の従業員を雇用する事業主
・融資先の9割が、資本金1,000万円以上の事業
・平均融資残高は135百万円
・融資先の8割が、融資期間5年超え

経営支援サービスでは、経営戦略や事業戦略を考える際に有効なSWOT分析を行ったり、ビジネスパートナー探しのサポートをしてくれたりなど、事業発展に役立つアドバイスを受けることができます。

農林水産事業

農林水産事業は、農林水産業者や食品産業を対象とした窓口です。天候などの影響を受けやすかったり投資回収に時間を要したりする事業が中心であるため、ほかの窓口が提供する融資制度よりも長期的な制度が充実しています。また、自然災害や家畜伝染病などの社会状況を反映した融資制度が提供されることも多く、農林水産業や食品産業のセーフティネット機能を担っている点も農林水産事業の特徴のひとつです。

民間金融機関(銀行)とは

一般的な銀行は民間金融機関と呼ばれ、民間の資本によって運営されます。民間金融機関は全国に多く存在しますが、組織目的や組織のあり方によって以下の2種類に分類することが可能です。

 種類組織目的特徴
株式会社・都市銀行 ・地方銀行利益を追求する・全国の企業と取引可能 ・大企業との取引も多い
協同組織金融機関・信用金庫 ・信用組合組合員や地域の繁栄を図る、相互扶助が目的・一定の地域に限定される ・中小企業や個人が主な取引先

都市銀行をはじめとする株式会社は、株主利益を生み出す必要があるため利益率を重視する傾向にあるといえます。そのため、共同組織金融機関の方が低金利であったり創業融資が受けやすかったりするケースも少なくありません。

民間金融機関の融資制度

銀行が提供する融資にはいくつかの種類があります。金融サービスごとに異なる名称で呼ばれているケースもありますが、大きくわけて以下の3つに分類することが可能です。

種類特徴
プロパー融資・融資が返済されなかった場合、銀行は貸し倒れする ・金融機関からの審査が厳しい ・比較的、金利が低い ・融資額は審査内容によって決定される
信用保証協会の保証付き融資・銀行は貸し倒れのリスクを回避できる ・金融機関からの審査は比較的、通りやすい ・プロパー融資よりも金利は高い ・限度額は無担保8,000万円、担保有2億8,000万円 ・融資額のほかに信用保証協会への手数料が必要
ビジネスローン・融資対象は事業を営んでいる者 ・審査が通りやすく、審査期間が短い ・金利が高い ・限度額は、やや低い

信用保証協会を通さないプロパー融資は、銀行側に貸し倒れのリスクがあるため、審査基準が厳しい傾向にあります。そのため、返済実績などのない事業主が創業融資を希望した場合、融資が通らない可能性が高いです。一方、ビジネスローンは金利がやや高いといえますが、審査が通りやすかったり審査期間が短かったりする利点があります。民間金融機関で融資を希望する際は、それぞれの融資制度のメリットとデメリットを理解したうえで申請しましょう。

日本政策金融公庫と銀行の違い

中小企業者や個人事業主が融資を受けようとした場合、日本政策金融公庫をはじめとする政府系金融機関や、都市銀行や信用金庫などの民間系金融機関を候補として挙げることが一般的です。それぞれ事業目的や組織のあり方が異なるため、融資を希望する際は特徴や違いを理解しておくことをおすすめします。

 日本政策金融公庫一般的な銀行(民間金融機関)
事業目的・セーフティネット機能の発揮 ・日本経済成長、発展への貢献 ・地域活性化への貢献営利 等
業務内容・融資 ・経営支援サービス・預金業務 ・為替業務 ・貸出業務
原資国庫金預金など
金利(貸入利率)・低い(平均0.89%)※1 ・基本的に固定金利・比較的高い(1%~14%程度)※2 ・固定金利もしくは変動金利
自己資金額低い高い
担保・保証人無担保・無保証人の制度 有一部、無担保・無保証が可能
返済期間例)創業融資における平均 ・運転資金は7年以内 ・設備施設は20年以内 ・据置期間は2年以内例)創業融資における平均 ・運転資金は7年以内 ・設備施設は10年以内
審査期間3週間から1ヶ月程度1ヶ月から2ヶ月程度
主な融資先・個人事業主 ・小規模企業 ・中小企業・大企業 ・中小企業  

参考:日本政策金融公庫/中小企業事業(主要利率一覧表)

違い① 日本政策金融公庫は銀行よりも金利が低い

日本政策金融公庫の平均金利が0.89%に対し、一般的な銀行の金利は1%から14%程度です。日本政策金融公庫の金利が低い傾向にある理由として、以下があげられます。

・日本政策金融公庫の原資は国庫金によるものであるため、大きな利益は不要
・一定の条件を満たすことで、より低金利である「特別利率」が適用される

特別利率が適用される条件は融資制度によって異なっており、性別や年齢をはじめとする融資対象者への条件のほか、創業セミナーの受講や特定の設備を導入するなどの条件まで多岐にわたります。代表的な特別利率適用条件は、担保の提供です。銀行においても担保の有無で金利は大きく変動しますが、日本政策金融公庫では低い基準利率から更に0.5%ほど引き下げることが期待できます。

日本政策金融公庫からの融資を希望する際は、返済負担の軽減につながる特別利率の条件を確認するとよいでしょう。

参考:日本政策金融公庫/国民生活事業(主要利率一覧表)

違い② 日本政策金融公庫は銀行よりも融資が受けやすい

日本政策金融公庫の役割は、銀行の行う融資を補完することです。銀行で融資が受けられない人にも前向きに融資を行っているため、銀行よりも融資が受けやすいといえます。さらに、以下をはじめとする返済負担の観点においても、日本政策金融公庫からの融資は受けやすいと判断することが可能です。

・融資制度の大半が固定金利
・銀行の金利と比較して、低金利
・無担保、無保証で受けられる融資制度も提供されている
・基準利率や特別利率は、事業内容ごとに適切な金利が適用される
・50以上の融資制度から自身の事業に適した融資が希望できる

低金利である日本政策金融公庫は、返済負担を軽減させることが可能です。また、計画的に返済しやすい固定金利である点も、日本政策金融公庫からの融資を受けやすい特徴だといえます。

違い③ 日本政策金融公庫は銀行よりも必要となる自己資金額が少ない

用意すべき自己資金額が少なく済むことは、融資を希望する際のハードルを下げるだけでなく、自己資金額がうまく集まらなかった場合にも有効です。そのため、融資を受ける際には自己資金額の大きさも重視されます。以下は、銀行と日本政策金融公庫で求められる自己資金額と融資限度額の関係です。

・銀行:自己資金額と同等の金額が融資限度額と定められる傾向にある
・日本政策金融公庫(新創業融資制度):必要な自己資金額は融資額の10分の1以上

日本政策金融公庫では、融資制度によって求められる自己資金額が異なります。そのため、融資制度を選ぶ際は、融資の使い道や金利だけでなく必要な自己資金にも注意するとよいです。

違い④ 日本政策金融公庫の融資審査では面談が重要

銀行での融資審査では、返済能力があるかどうかを判断するために経営実績が重視される傾向にあります。一方、日本政策金融公庫では以下を理由に、面談や事業計画などを総合的に判断して審査されるケースが多いです。

・経営実績のない事業主を対象とする、創業融資を積極的に行っている
・銀行が行う金融の補完や国民生活の向上を目的としている
・地域の開業率を引き上げることで、国内総生産(GDP)の増加を目指している

日本政策金融公庫では、銀行からの融資が受けにくい状況にある事業主に対しての融資に前向きだといえます。とはいえ、誰もが融資を受けられるわけではなく、面談にて以下を証明したり用意したりしなければなりません。

・無理のない事業計画や具体的な返済計画
・希望する融資制度に見合った自己資金
・融資を希望する理由や事業内容など、事業者の姿勢や思い

とくに事業計画においては、妥当性に欠けていたり数字と実態に矛盾が生じていたりすると、審査が通らない可能性が高いです。もし事業計画の作成に自信がない場合は、日本政策金融公庫の創業サポートにてアドバイスを受けるなど、専門家へ助力を求めることをおすすめします。

日本政策金融公庫の融資制度をおすすめする人

日本政策金融公庫が提供する融資制度は、返済負担の少ない低金利・固定金利です。そのため、多くの事業主におすすめできます。なかでも以下のいずれかに該当する事業主は積極的に、日本政策金融公庫の融資制度をチェックしてみるとよいでしょう。

創業を計画している人

日本政策金融公庫は、創業融資に前向きである金融機関のひとつです。国民生活事業をはじめとする全ての事業窓口で創業融資が提供されています。特筆すべきは事業開始後、おおむね7年以内の事業主も融資対象となる点です。ほかにも、廃業した経歴がある事業主が利用できる「新規開業資金 再挑戦支援関連」という創業融資もあります。

国民生活事業が提供する基本的な創業融資では、7,200万円(内、運転資金が4,800万円)が融資限度額であり、担保を不要とした場合の金利は1.93%から2.90%です。さらに、35歳未満もしくは55歳以上の事業主が対象となる特別利率をはじめとして、4つの特別利率も用意されています。(2023年3月時点)

参考:日本政策金融機関/新規開業資金
参考:日本政策金融機関/新規開業資金・再挑戦支援関連

小規模事業主や個人事業主

日本政策金融公庫では、事業規模が融資審査の不利に働くことはなりません。また、小規模事業者や中小企業者の事業安定・発展のために利用できる融資制度も豊富に提供されていることからも、日本政策金融公庫の融資制度は、小規模事業主や個人事業主におすすめできます。以下は、比較的活用しやすい融資制度です。

・企業活力強化資金:キャッシュレス決済導入や取引環境の改善関連に対する融資制度
・観光産業等生産性向上資金:観光に関する事業者が生産性向上を図るための融資制度

いずれも融資限度額は7,200万円あり、内4,800万円が運転資金です。返済期間は、設備資金においては20年以上と長期であるため、計画的に利用しやすい融資制度だといえます。ほかにも事業や目的別で多くの融資制度が提供されているので、経営課題の解決や事業発展に向けて上手く活用しましょう。

社会情勢や自然災害の影響を受けた人

セーフティネット機能をもつ日本政策金融公庫では、社会情勢や自然災害などを理由とする社会ニーズを満たす融資制度も提供しています。たとえば災害貸付においては、直接的に被害を受けた場合だけでなく、取引先が被害を受けたことで売上に影響が生じた場合も融資対象です。現在、社会情勢や自然災害の被害に悩んでいる事業主は当然ながら、被害に遭った場合の万が一の備えとして、日本政策金融公庫の融資制度を留意しておくことをおすすめします。

まとめ

日本政策金融公庫と銀行は、事業目的や事業内容などに大きな違いがあります。違いは提供される融資制度に大きく反映されており、金利が低い傾向にある日本政策金融公庫においては、融資を受けにくい立場の人でも利用しやすい融資制度が充実しています。

とはいえ、誰もが日本政策金融公庫の融資を受けられるわけではありません。返済能力があることを証明できる事業計画書の提示や、融資を希望する具体的な理由が求められます。事業計画書をはじめとする資料作成や面談対策などは、事前準備が融資成功の要であるといえるため、場合によっては専門家にアドバイスを求めるのもよいでしょう。日本政策金融公庫と銀行の違いをよく理解し、自身の事業に適した融資制度を利用してください。

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